IoTが切り拓く社会イノベーションサービス

2015年10月30日

DSC01258昨今、IoT(Internet of Things)という用語がメディアを騒がせて久しいが、ICTやIoTという流行りの文字面だけに惑わされないよう、ここではまず初めにそれぞれの違いをInternational Telecommunication Union (国際電気通信連合、通称ITU)が提唱している定義に沿って簡潔に説明したい。

ICTとは言わば “Anytime communication” と “Any place communication” を満たすテクノロジーあるいはツールを指し、情報やコミュニケーションを取り扱うものを総称する非常に幅の広い概念である。したがって、ICTの代表格となるデバイスは、スマートフォンと言って差し障りないだろう。一方、IoTはこのICTの概念をベースとしてさらにもう一つの要素 “Anything communication” を追加し、物理世界と情報世界をつなぐ情報社会の基盤となりうるものとして考えられている。つまり、IoTはこの3要素(TIME, PLACE, THING)を満たす情報インフラを指す。RFIDタグ、WSN(ワイヤレスセンサーネットワーク)、M2M(Machine-to-machine)などはIoTが包括しているテクノロジーツールの一つである。

IoTはその性質上あらゆるモノが対象となるため、2020年にはこの地球上で200億から1,000億個ほどのIoTデバイスが存在すると見積もられており、それぞれがインターネットを通じて物理世界と情報世界をつなぐ役割を果たすと推計されている。それに伴っていくつかの調査で多少のばらつきはあるが、2020年にはIoTが関わる経済規模は世界でおよそ1.9兆ドルから14.4兆ドル(日本円にして約220兆円から1,728兆円)に達するとも言われており、多くの企業でその活用方法が模索されている。

ここイギリスにおいてもIoTの注目度は例外ではなく、政府、民間会社をあげて集中的な投資対象の分野となっている。特に交通機関、エネルギー、ヘルスケア、農業、ビルディングといったセグメントへの効果は非常に期待されている。

Credit: Microsoft

交通機関を例にとると、現在およそ900万人いるロンドナー達の足であり、世界でも有数の多くの観光客が訪れるロンドンの公共交通サービスを運営するTfL(Transport for London)では、交通網の円滑な順行がその運営に欠かせない。その課題に対応するため、例えばTfLが運営する地下鉄(通称Tube)ではMicrosoft Azure Intelligent Systems Servicesを活用し、CCTV、PAスピーカー、エアコン、エスカレーター、エレベーターなどに付加されたセンサーからのデータを収集しながらTubeを一元的に管理している。リアルタイムにセンサーからの情報を収集、統合することで、エスカレーターの不具合事故の未然防止など、カスタマーサティスファクションの向上に努めるとともに、メンテナンス費用も今までのシステムに比べて削減できるという。また、日本でいうところのSuicaに相当するOyster Card(Tubeや市内を走るバスにも利用できるため、ロンドンではこれ一枚でほぼ全ての交通機関をカバーできる)の利用履歴や各交通車両に備えられたセンサー、またソーシャルメディアといった膨大なデータ履歴を活用することで、カスタマーの動線に合わせた情報発信(スケジュール遅延や運行ルート変更、事故情報など)ができるようになったという。

IoTが切り拓く社会イノベーションサービス

TfLのこれら活動は、大量の物理空間情報をリアルタイムに収集分析、そこから得られる知見を活かしてサービスを提供しているという点において、IoTなしでは達成できないものであり、IoTが寄与する社会イノベーションサービスの一つの顕著な例となっている。TfLでは今後もIoT及びビッグデータの活用による交通インフラの向上に励むべく、上記のMicrosoftのプラットフォーム以外にも、オープンソリューション(Hadoopなど)を利用してそのデータ需要に応えていきたいとしている。