ラグビー界でのビッグデータ活用

2016年1月12日

Japan_rugby

日本でも熱狂のうちに閉幕した今回のイギリスで開催されたラグビーW杯2015ですが、ビッグデータの活用という点においてイギリスではにわかに注目を浴びていました。

勿論、スポーツ分野におけるデータ活用それ自体はそれほど新しいものではありません。例えば、初めて統計を駆使し蓄積された選手データを分析・有効活用して大きな成功を収めたのは、メジャーリーグのOakland Athleticsで今から14年ほども前になります(2011年にブラッド・ピットが主演、このOakland Athleticsの活躍が映画化されました。その映画「マネーボール」が日本でも公開されたのでスポーツ関係者以外の人々もデータマネジメントがスポーツに及ぼす影響力の可能性に気付いたのではないでしょうか)。それまで直感や長年の経験に委ねられていた主観的な判断基準から、客観的なデータを分析することで得られる洞察からの判断を重視する傾向が生まれました。それからというもの、野球はもちろんのこと、あらゆるスポーツにおいてデータの活用が勝つための一つの要になっています。

今日ではそのデータが「ビッグデータ」として、スポーツの勝敗への影響度がさらに大きくなっています(ここで言うところの「ビッグデータ」とは構造化された数値データだけでなく、音声や映像、テキストなどの非構造化された情報がリアルタイムに収集されたデータ集合を指します)。2014年のサッカーブラジルW杯で優勝したドイツにおいても、ビッグデータはドイツの「12人目」の選手と言われたほど、データ分析が試合の勝利に大きく寄与したそうです。そしてラグビーも他のスポーツに漏れず、近年ビッグデータを有効活用しようとあらゆる手段が模索されています。その活用は、健康管理やケガの防止、GPS装着のシャツを着用した選手の動作追跡から試合の組み立てに活かすなど、多岐に及びます。

例えば、慶応ラグビー部が2015年に導入したSAPのビッグデータ分析ツール は、選手のプレーを動画撮影、トラッキングし、練習効果の測定や試合分析を通じた選手育成への貢献が期待されています。またロンドンの強豪ラグビークラブSaracensでは、コーチが指示するゲームプランの戦術の強み弱みをデータから紐解き、状況に応じて戦術を変えるなどして試合に活かしています。さらにニュージーランドのAll Blacksは足や腕などにセンサーを取り付け、筋肉収縮をリアルタイムに計測、練習の負荷度合い、スクラムの衝撃等からケガのリスクを事前に検知するなどパフォーマンス管理にビッグデータを利用しています。

ラグビーイングランド代表においては、選手がGPS付きウェアラブルデバイスを装着し、練習中や試合中における測定可能なあらゆるリアルタイムデータをコーチと共有して、本試合での戦略決めや選手の選定に活用していたそうです。しかし残念ながら最も期待されていた今回のW杯では、これらデータドリブンなスポーツマネジメントも著しい結果を残せなかったようです(ベスト8落ち)。ただ、イングランド代表チームだけでなく他国の代表チームも多かれ少なかれビッグデータを活用して試合に臨んでいたようですので、この潮流は一種のトレンドではなく、勝つために最低限必要なスタンダードなものになっていることが窺えます。

上述したOakland AthleticsやSaracensでデータに基づいたスポーツマネジメントを実践したことで有名な、現在はLeeds大学ビジネススクールの教授でもあるBill Gerrard氏は「長期的には、コーチ席は”あらゆるデータを利用可能なF1ピット”のようになり、データを元に下される判断・決定が逐一試合に影響を与えるようになる」と言っています。このことからも、ビッグデータ分析は勝利のためにはなくてはならない、プレイヤーやコーチの強力なサポーターとして定着しつつあります。