スマートアグリ先進国オランダ

2016年1月13日

昨年10月に大筋合意と報道されたTPP協定や農業従事者の減少・高齢化、耕作放棄地の増加など多く課題を抱える日本の農業において、ITによって新たな活路を見出そうとする動きは、近年最も注目を集める分野の1つとなっています。「スマートアグリ」などと称されているこの分野で先進国といわれているのは、日本の九州と同程度の国土面積、農用地面積は日本の4割程度、さらに農業人口も日本の7分の1程度でありながら、農業輸出額ランキング世界二位に君臨するオランダであることをご存知でしょうか。今回はオランダでスマートアグリ導入が進んだ背景と具体的な取り組みについてご紹介したいと思います。

オランダでスマートアグリの導入が進んだ背景

オランダがスマートアグリ先進国となった背景には、1986年に現在のEUの前身であるEC(欧州諸共同体)に農業大国であるスペインとポルトガルの加盟が決定したことが大きく影響しています。土地面積や気温、日照時間などの地理的な条件でオランダよりも圧倒的に恵まれている2国からの安い農作物が大量に押し寄せる中、各農家主導で生き残りをかけて何とか導き出した答えが、①農作物の選択と集中と②IT技術の活用でした。

① 農作物の選択と集中

小麦等の穀物や葉物野菜などの日持ちしない作物は大幅に近隣のEU諸国等からの輸入に頼る一方で、注力しているバラ・キク・フリージア等の切り花やトマト・パプリカ・ナス等の果菜類は、EU諸国をはじめとする外国への輸出を前提として国内消費を大幅に上回る量を生産しています。*島国の日本とは異なり、近隣諸国とは陸続きで輸出入の際の関税が撤廃されているなどの背景も、農作物の選択と集中の推進要素となりました。現に2011年の施設野菜の品目別栽培面積をみると、上位3品目の集中度は80%にまで達しています。(日本は37%)

② IT技術の活用

Greenhouse

アグリポートA7のビニールハウス

土地の有効活用の一環として、ビニールハウスの大規模化とIT活用が進められました。例えばオランダ北ホランド州の巨大農業地帯にあるアグリポートA7では、温度・湿度・光(LED照明)・二酸化炭素濃度・養分の量など500項目に渡る情報をセンサーがリアルタイムに拾い上げ、ビニールハウスとは異なる場所にあるオフィスのパソコンの前で管理者がグラフ化された現状を確認します。理想の状態と離れている項目があれば、24時間体制で自動で環境が操作され、常に最適な状態を保つことができます。こうした環境制御システムは、施設や制御システムに精通した農業コンサルティング企業と制御システムメーカーが連携することで実用化されており、製造業と同レベルの高度な生産管理システムといえます。また従来の肉体労働のイメージと大きく異なるホワイトカラーのような働き方が可能となったため、労働環境の改善・イメージアップへと繋がり、労働者の確保もしやすくなったという効果もありました。アグリポートA7ではスマートアグリによって高い収益を上げるようになり、2012年時点でハウスは52.5ヘクタールまでに拡大、売り上げも46億円に達しています。

このようにもともと各農家が独自で進めてきたスマートアグリでしたが、オランダ政府としてもEER-triptychと呼ばれる、農業教育機関・普及機関・研究機関が緊密に連携した取り組みへ農業予算の4割という多額の研究資金を投入することで農業の競争力強化を支援しています。

日本におけるスマートアグリの可能性

日本では、近年経済産業省においてもスマートアグリの本格導入に関わる議論が頻繁に行われているものの、現状として国からの補助金等はなく、あくまで農家もしくは民間IT企業・農業関連法人・大学等の連合と行政との協力体制の下で検証・実用化が進められています。日本はオランダとは異なり、島国であるが故に内需の占める割合が多いことや、味にうるさいと言われる日本の消費者を納得させるには、農作物の選択と集中も一筋縄にもいかない状況があります。さらに台風などの自然災害も稀ではない為、単純にオランダの模倣をすることが得策とは言えません。ただ日本の農業は間違いなくターニングポイントを迎えており、農業分野におけるITソリューションも増えてきている中で、今後どのような形でイノベーションが起こるのか、非常に楽しみな分野であると言えるでしょう。