VRの歴史

2016年6月16日

2016年5月中旬に開催されたGoogleの年次開発者向けイベントである”Google I/O 2016″では、AI (Artificial intelligence: 人工知能) やVR (Virtual Reality: 仮想現実、コンピュータなどによって作られた仮想空間を現実のように疑似体験できる技術) 領域においてその開発を先導していこうとする様々な取り組みが紹介されました。GoogleのVRといえば、2014年のGoogle I/Oにて発表された段ボールで作られたヘッドマウント型ディスプレイと既存のスマートフォンを組み合37361036_sわせたGoogle Card Boardが有名です。段ボールという素材の安さとスマートフォンデバイスの活用というシンプルさが売りとなり、VR体験に興味を持つ多くの人が高いハードルなく使用することができるようになりました。結果として、VR対応のアプリケーションも続々と開発され、VRでエンターテイメントを楽しむことが一気に身近になりました。その後、2016年4月にはVR空間にモーションインターフェイスを活用して自由に3DペインティングができるTilt Brushを、そして今回のI/OではVRのプラットフォームDaydreamが発表されるなど今後も大きな成長が期待されるVR分野でGoogleの攻勢が続いています。

 矢継ぎ早に新たなサービスが続々と発表されるVRですが、VRの新しいトレンド情報は数多の情報サイトで公開されていますので、当コラムではVRの開発の歴史を2回に分けてご紹介します。第1回目となる今回は1970年代までのVRの歴史を振り返ります。

 

VR概念の誕生

 初めてVRに似たデバイスが登場したのは、1936年に出版されたWonder Stories Magazineの中の1つのショートストーリー’Pygmalion’s Spectacles’(著者: Stanley G Weinbaum)でした。その物語上でのデバイスは、ゴーグルとゴム製のマウスピースが実装されたガスマスクを思わせるような形状で、そのガスマスクに液体を注ぎ込むとホログラム映像が浮かび上がるようになっており、さらに視覚だけではなく聴覚や嗅覚、そして触覚までもが感知できるようになったものでした。当時はもちろんこのようなデバイスはそのベースとなる基礎技術すら確立していませんでしたが、VRの概念が誕生したのはこの著作が元であると言われています。

 

1960年代

’Pygmalion’s Spectacles’が出版された約20年後、”VRの先駆者”と呼ばれるMorton Heiligによって、1957年にSensorama Machineが開発、1962年に特許が取得されます。Sensorama Machineとは、リアリティイリュージョンを体感できるシミュレーターで、香り、ステレオサウンド、座席の振動、そして送風といった機能を備えた3Dモーションピクチャーを提供するキャビネット型のマシンです(私たちが現在でもゲームセンターで見かけるアーケードゲームを、さらにリアル体験が増すように改造されたマシンを想像してもらえるとわかりやすいかも知れません)。また、Mortonは1960年に現在のヘッドマウントディスプレイの機器に似たTelesphere Mask(3Dワイドビジョンとステレオサウンドを提供)の特許も取得しています。

 その後、”VRの祖父”として知られワシントン大学の教授であるThomas A Furness IIIが1966年から1969年に開発した空軍向けのヘルメット型のフライトシミュレーターディスプレイは、軍隊の訓練にかかるコストや実際に訓練をするには複雑すぎて困難なタスクを解決する手立てとして、軍隊がVRを活用する大きなモチベーションとなります。これを契機に、VRは軍隊にとって訓練ツールとしてなくてはならないものになっていきます。

 また、これと同じ時期1968年にMITのIvan SutherlandはThe Sword of Damoclesと名付けた2つのブラウン管式ディスプレイを搭載したヘッドマウントディスプレイシステムを発明しています(以下の映像)。

参考動画(リンクあり):First Head-mounted display (1965) The Sword of Damocles

これが今のヘッドマウント型VR機器の原型になっていると言われています。

 

1970年代後半

 MITの学生であったAndy Lippman、Bob Mohl、MITメディアラボの創設者であるNicholas Negroponte率いるMITアーキテクチャマシングループ、そしてMichael Naimark(メディアリサーチャーで著名)やScott Fisher(立体画像技術を担当したテクノロジストで有名)ら錚々たるメンバーによって1978年にAspen Movie Mapが開発されました。

 Aspen Movie Mapは私達が日常利用しているGoogle MapのサービスであるGoogle Street Viewの元祖と言われています。これはアメリカのコロラド州アスペンの街を紹介するインタラクティブ動画システムの総称で、16mmフィルムカメラを車に載せてアスペンの通りを約3m毎にシャッターを切り、レーザーディスクに記録し、アスペンの2次元シティマップと連携させるものでした。ユーザーは投影されたビデオ映像で行きたい方向の画面上を指でタッチするだけでアスペンの街を探索でき、さらには気になるビルの外壁をタップすると、そのビルのインテリア情報が閲覧できるなど画期的な機能も備えていました。現在のようなヘッドマウント型ディスプレイによる360度映像は提供していませんが、このAspen Movie Mapが”Virtual Mapping Environment”の始まりとなります

Aspen Interactive Movie Map

次回は1980年代から現在までのVRの流れを紹介します。