生成AIとガイドライン

2024年1月19日

人口約4,000万人のカリフォルニア州は、人々の多様性と多面的な経済の強さにより、テクノロジーとイノベーションの世界的リーダーとなっているといっても過言ではないだろう。。州政府の統計によると、世界のAI企業トップ50社のうち35社の本社がカリフォルニア州にあり、近年話題の生成AIにおいてもそのイノベーションと研究において世界をリードしている。さらにカリフォルニア州では、生成AIは適切なガードレール(注1)を設置し、その革新的なテクノロジーを責任を持って使用することにより、さらなるイノベーションを促進し、州のスタッフをサポートし、州の人々の生活を改善することができるという認識から、州としても積極的に生成AIを活用していく姿勢がうかがえる。

生成AIは、従来のAIの進歩に基づいて構築されており、ユーザーやプログラマーからの自由形式のテキスト要求に応じて、非常に大量のデータを使用して、独自の文書、オーディオ、ビジュアルコンテンツなど、まったく新しいコンテンツを生成する機能を有している。つまり、特定のタスク向けに設計された従来のAIシステムとは異なり、生成AIモデルは継続的なトレーニングを実行して、特定のビジネス用途に合わせてモデルを微調整することにより、柔軟で多機能になるように設計されている点に特徴がある。

生成AI製品は、ChatGPT、Dall-E、Bardなどのスタンドアロンアプリケーション(注2)としてすでに利用可能であり、皆さんも利用されていらっしゃるかも知れない。前述したとおり、適切な ガードレールの設置 (ガイドライン)により、適切に利用すればかなりの生産性を高めることができ、社会への貢献も多大となる。一方、つい最近話題になった、生成AIによるアメリカの有名歌手の偽画像の作成、流出、拡散といったような負の側面も発生してしまう。

昨年10月、バイデン大統領は、新たな安全性、公平性の評価、公民権に関する指針、及びAIが労働市場に及ぼす影響に関する研究を義務付けたAIに関する新たな大統領令を発令したが、これはアメリカ合衆国政府として初の措置である(注3)。法執行機関はAIの悪用に既存の法律を適用する用意があると警告しており、議会は新しい法律を制定するためのテクノロジーについてさらに学ぶことに努めているが、大統領令は、法的強制力があると言われていることから、より即時的な影響を与える可能性がある。大統領令の主要な要素として、AIの新しい安全性とセキュリティ基準の作成、AIで使用されるプライバシー技術の評価のため政府機関が使用できるガイドラインの作成、司法制度におけるAIの適切な役割に関するベストプラクティスの作成、AIが労働市場に与える潜在的な影響に関する報告書の作成、医療面や教育面でのAIツール使用に関するプログラム作成等、さまざまな分野にわたる指示が含まれている。他にも、気候変動などの分野におけるAI研究への助成金拡大、国際間での協力によるAI標準の実装などもある。

この大統領令に基づき、各州で生成AIの使用に関するガイドラインを作成しているが、カリフォルニア州も生成AIに関する利点とリスクをまとめたレポートが昨年末に発表されている。

そのレポートでは、生成AIを使用して、州の政策に関する国民のフィードバック分析を実施 し、プロセスとサービス提供を改善する機会の推奨、分析されたデータから洞察をし、会議、仕事、公共活動の文書の要約、政府サービスデータに生成AIを適用して、状況やニーズに基づいた追加のアウトリーチ、サポートサービス、リソースの提供、言語やその他の理由で公平に利用できていないと判断される政府サービスの改善等、具体的な施策が網羅されている。

生成AIの利用により人々の生活が大きく変わることは必須と感じるが、適切なガイドラインの作成およびそのガイドラインに沿った利用による豊かな社会の実現を期待したい。

 

注1)「ガードレール」とは、AIの開発と使用における安全性、倫理性、および信頼性を確保するための制約や基準を意味します。AI技術が人間の価値観と社会的規範に沿って使用され、潜在的なリスクや悪用を最小限に抑えることを目的としています。ガードレールは、AIシステムの設計、開発、展開、および監視において、具体的な行動規範や基準を提供します。

注2)外部の環境に依存しなくとも単独で動作するソフトウェアアプリケーション。

注3)詳しくは下記リンクから参照可能。

FACT SHEET: President Biden Issues Executive Order on Safe, Secure, and Trustworthy Artificial Intelligence | The White House  

バイデン米政権、AIの安全性に関する新基準などの大統領令公表(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ (jetro.go.jp)